祭祀絵(神戸2)


 
 十七時半頃に店を出て三宮センタープラザに向かう。JAMJAMで読む本を探そうと思って古書店に入る。ここは行くたびにほしい本が見つかるので重宝している。三宮・元町で遊ぶ時はたいてい覗く。あと、会計の際、手を添えてお釣りを渡してくれる店員がいる。マニュアルか無自覚かどうか知らないけれど、「お釣りを渡すときは手を添える」と仕事をするのは良いことだと思いませんか。私にその了見、了見が素敵に感じる。了見が。いや白状する、女です、店員は美しい女です。
先々週行ったときは、その店員がもうひとりいる女の店員と雑談をしていた。失礼な客のことをかなり辛辣な口調でけなしていた。全然いやじゃなくて、本を選びながら話の続きを聴いていた。もはや本は本屋にいる口実だった。客の悪口の次はチャゲアンド飛鳥の話題で盛り上がっているようすで、
「アスカ」「シャブ」「あかんやろ」ということばが聞こえた。その時のことを思い出すと魘されたようになって夜なかなか寝付けなかった。悪口も人です。

 200円コーナーに『鳩よ!』という雑誌を見つける。すぐ買うことに決める。町田康特集だった。別の女性店員がいて件の店員はいなかった。

 
夕飯は元町の「一花」というラーメン屋に、と思っていた。インターネットで見る限りくさいとんこつラーメンが食べられそう。プロレス興行のチラシがガラスにある感じ(実際に貼ってあった)の店です。三宮駅元町駅、元町高架下の順に10分かけて歩く。到着して窓ガラスを見ると、営業時間変更のお知らせ、土曜日は14時まで、とあった。

 
行く迄の道すがら、帽子屋や服屋を見た。「無」「Taro」「インペリアル」などの名前を後学のためにメモした。帽子屋ではブルーハーツマーシーが被っていて気になった、からし色のキャスケットが売っている。
D
どんな顔型の方にも似合う形と書いてある。被ってみたが、良いのか悪いのか分からない。近づいて来てくれ、と祈りを込めて鏡越しに店員を窺うが、とても険しい顔をしている。似合わないを通り過ぎて、邪魔しにきたやつと思われたのかもしれない。
 

 高架下の本屋で戦メリ時のビートたけしのインタビューが載った『話の特集』という雑誌をみつける。200円。雑誌といっても小冊子くらいの厚さしかない。たぶんこのインタビュー記事しか読まないし、読み切れるはずだ。購入。


 

 本の自慢をひとつ。明石家さんまが「SEX」と発言する雑誌を所有しています。
f:id:columbia6421:20160103151229j:image
 

 
 JAMJAMのビルに美味しそうなとんかつ屋を見つけたが、2000円近くするのでまた今度にする。迷った挙句、泗香園という駅のすぐ近くにある中華料理屋に入る。750円の定食を注文する。白ご飯、薄い中華スープ、酢豚、えびと卵を炒めたもの。焼豚、野菜、とジャスミン茶。VAIOのパソコンで何かをするおばさんが接客した。安心するぐらいの美味しすぎない美味しさだった。
 ふつうの美味いで満足しろよ、と思うことがある。求道的なラーメン屋に行くのはいいが、客が求道者みたいな顔しているのを見るとお前は客だろうと思う。
こんな光景一回も見たことがない。食べログを見すぎて架空の、求道的な客に対する被害妄想を行っているのか。求道的な客なんて見たことないです。勝手なイメージを作って怒る時が自分にはあるのかもしれない。
 19時半頃JAMJAMへ行く。ブレンドコーヒーを初めて頼む。ウインナーコーヒーとか抹茶オレを好んで飲んだ。ブレンドは苦くておいしかった。アイス抹茶オレを頼もうと思っていたのだが、さっきの町田康の特集を見、今晩は苦いのを頼むぞ、と気合を入れた。以下引用。

すべてとすべてとすべてを剥奪されて私はラッキー

ぐずつく天気に
お前の最高の笑顔を

町田の詩を持った人々が街に立っている。詩が街に存在する。特集の多くのページを占めた。自身で企画したものらしい。インタビュー記事はなく代わりにひどい百問百答があった。特にありません、同右を連発しているやつ。町田が撮影したVAIOの写真を見つける。寸前に見たものや考えていたことを、また見てしまう時がありませんか。思い返すとやたらに今日はそういう日だった。
雑誌ではほかに、太田光代の連載が載っていた。太田光と光代夫婦が猫を飼うことになったいきさつが読めてうれしかった。ツイッターでその猫が最近亡くなったというのを見た。猫って何なんだろう。

 
つぎに『話の特集ビートたけしのインタビュー記事だけを読む。ちょっとだけ引用します。

矢崎 だけど悲しみは別にあるんだよね。
たけし 状況によって捨てちゃって、また拾えばいいんだから、そんなものを全部引きずっては動かない。それを背中にしょって動いてると勘違いするから困っちゃう。

中身も見ずに買った雑誌が自分のなんとなく考えを見事に言い表していることがたまにあって、本は読んだ方がいいと思う。コーヒーと水を空けて店を出る。特集とかインタビューとか、雑誌は喫茶店で読むにはちょうどいい分量だなと思った。だから置いてあるのか。
楽しかったという感情が押し寄せた。